2009年03月06日

フランス代表監督インタビュー

北京オリンピックに続き、世界選手権もフランス代表が優勝した。

ここまでフランス代表が強くなったのは理由がある。

約2年間、温めていたが、日本ハンドボール界の為に情報を共有したく公開する事にした。少し長くなるが2007年、中国・蘇州で日本代表や中国代表、フランス代表が試合したときに、フランス代表オネスタ監督にインタビューした記事を。





2007年6月9日フランス代表オネスタ監督インタビュー (中国 蘇州にて)

Q オネスタ監督こんにちは。ご無沙汰しております。また今日は忙しい中、時間を割いてくださりありがとうございます。
A 久しぶりだね。日本に帰ってクラブを立ち上げたと聞いたよ。

Q はい。なんとかフランスやスペインのようなプロのクラブを創りたいです。
さて、今日はいくつか質問を。

Q1 まず現在のフランス代表の状態と今回のメンバーについて聞かせて下さい。
A 今のフランス代表の調子は良い。また若い選手でとても興味が持てる選手も多い。

Q 今回のメンバーは半分がA代表で、残りは若くて経験の少ない選手ですが・・・
A そう、半分はA代表つまり世界のトッププレーヤーで、彼らには来年の北京オリンピックに向けて中国の視察(気温や食事、環境など)がメインだが、若手については次のロンドンオリンピックに向けて経験をつませている。

Q すでにロンドンオリンピックも視野に入れているのですか?
A 常に先のことを考えて行動しないとね。

Q2 世界選手権(ドイツ)での敗因は?(フランス代表は優勝候補に挙げられながらも、準決勝で地元で優勝したドイツに第2延長の末敗れている)
A 審判が普通でなかったのは明らかだった。まぁ2万人の観客がドイツを応援し、その状態で審判が普通に笛を吹くのも難しいだろうが・・・

Q ダニエル・コンスタンティーニ(前フランス代表監督)にも以前お聞きしたのですが、フランス代表の強さの秘訣は?
A 1つは12歳から良い選手を探し集めて、エリート育成しているからだ。やはり若いときから才能のある選手を早く見つけて多くのトレーニングをこなすことが重要だから。
2つ目にフランスは君の知っているとおり、北と南でハンドボールスタイルが大きく違うし、東と西でも大きく違う。特にアフリカ(レユニオンなど)は文化も違うから、それだけハンドボールもバリエーションが増える。ドイツやユーゴスラビア、北欧のハンドボールと大きく違う点だ。

Q 違う文化や違うハンドボールシステムがあると、代表でまとめるのが難しそうですが?
A そう!(笑) それが僕の仕事だ。

Q フランス代表の長所と短所は?
A フランス人はフィジカルが強く、精神的に強い。今回も細くて小さな選手でも大型選手を相手に1歩も引かないし、あたり負けしていないだろう?君も解るようにフランスでDFは1歩も引くことが許されない。
もう1つの長所は、先に話したフランスの他民族性だ。いろんな選手にいろんなハンドボール、いろんなアイディアにアイディンティティー。これらを上手く機能させることが出来たら世界でもトップだが、逆に個々の選手がバラバラに行動してしまうという短所も含んでいる。フランス代表が他国よりも試合の波が激しいのはこれらの理由が挙げられる。

Q 日本代表の現状をどう思いますか?
A 日本は今大会で中国・韓国に敗れているが、僕が見たなかでは中国や韓国よりもチームとして優れている。特にオーガナイズ(セットプレーやシステム)、チームワークにチームバランスは1番良いだろう。ただ結果は負けた・・・

Q 日本のチームには何が足りなかったと思います?
A 1つは日本の選手には大型の大砲がいない。フランス代表や世界の強豪国を見たらわかるように、どのチームにも大型のアタッカーがいる。大型選手がロングシュートを打ってDFを前に出させてスペースを作るということはハンドボールで必須だからね。

2つ目に日本の選手は戦い方(駆け引き)が下手だ。あまりにも正直に戦いすぎている。ハンドボールはポーカーと一緒で、毎回良いカードがくるわけじゃない。時には悪いカードでも勝たなければならない。そのときは相手との駆け引きやブラフも必要になってくる。日本の選手は監督が右に行けと言ったら、みんな右に行くだろうが、フランス代表選手は僕が右に行けと言ったら口では「ウィー(はい)」と言っても、実際は左に行く選手が多い・・・(苦笑)
でもこれはフランス人選手の特徴で、自分が見て判断し自信を持ってプレーしている。必ずしもうれしい事ばかりではないが、そこに計算できない状況が生まれる。サプライズ的な行動は僕よりも相手監督をもっと動揺させるからね。
現在の日本代表を見ていると、あまりにもベターにゲームを進めすぎて、全て予測できる。つまり勝てるチームにはベターに勝つが、負けるカードではサプライズもなくストレートに負けるだろう・・・

3つ目に日本には経験が足りないように感じる。君も知っているように海外でプレーすることは多くの事を学び経験する。フランスでも多くの選手が海外でプレーし学び、それをフランスに持ち帰ってフランス代表のレベルアップにつながっている。また海外で重要な試合を経験するということは、普通国内で試合・練習するよりも大きな意味を持つ。
例えば中国代表。選手は2mが多く大型で、トレーニングも驚くほどこなしている。普通に考えると世界トップレベルに達してもおかしくない。ただ中国は海外でプレーする選手もいないし、常に国内でトレーニングしているから、新しいアイディアに欠けている。知っている選手だけでトレーニングしても、あまり進歩できない。

Q 今回の日本代表で海外に通用すると思える選手がいましたか?
A 全員通用すると思うよ!ただ海外を知らない選手もいると思うから、君がオーガナイズしたら良いんじゃないか?
ただ海外でプレーするのは1人の選手だけでは足りない。少なくても5人以上の選手が海外でプレーし、いろんなハンドボールやアイディアを母国に持ち帰って、向上していく必要がある。

Q 日本が強くなるためには?
A 1つはフランスがここ15年で成功したのは、ジュニアの育成だ。
先に話したジュニアの育成システムはここ数年のフランス代表の結果につながっている。大事なことは、ジュニアの育成選手(エリート教育選手)には必ず大型選手を見つけることだ。フランスでも大型選手は他競技(バスケット・バレーやラグビー)との取り合いになっている。

Q 日本は体格的に恵まれた選手は少なく、また大きくてもスピードが遅かったり、気持ちの弱い選手が多いのですが・・・
A 日本にも大きな子供がいるだろう?彼らを早い段階で見つけ、どんなことがあっても我慢強く育てることだ。例えばフェルナンデス(バルセロナ・フランス代表のエース)やボスケ(フランス代表の左腕エース)を見てごらん?彼らも育成選手で若いときはひどかった・・・笑
ただ早い段階から大型選手に高いクオリティーで多くのトレーニングを課すことは凄く重要だ。付け加えると、大型で左利きはいつもアンテナを張って探していたほうが良い。これは現在のフランス代表・協会も行っている。

A 日本が強くなるための方法として、常に勝ちを意識するということが大切だ。勝ちを当たり前にする、勝ちを欲すると言うことだ。フランス人はポーカーでもサッカーでもお金がかかっていなくても勝ちたがるだろう?これはスポーツ選手として凄く重要なことだ。毎日の練習でも全て勝つ、1本のシュートでも相手に勝つ、勝負事は全て勝つことを意識する必要がある。

Q 最後に今後フランス代表の目標は?
A まず今日の試合に勝つことだ!笑 (このインタビュー2時間後にフランス対日本の試合が行われ、フランス代表が日本に8点差をつけ勝利した)
1つ1つの試合に勝利すること。だから今日も勝つことに集中するよ。
フランス代表はこれまで世界選手権で2回優勝したし、ヨーロッパ選手権も優勝した。ただオリンピックだけは勝っていない。だから今度の北京オリンピックで勝つことが目標だ。
ただどの国も勝ちたいと思い必死でトレーニングするだろうから、どういう結果になるかわからないが・・・

Q 今日はお忙しいなかありがとうございました。また今日の試合(対日本)は本気出さないでくださいよ!笑
A ははは、グレッグ(フランス代表で僕の親友)に言ったら?笑
Q では会場で。良い試合を期待しています!


オネスタ監督はトゥールーズ出身で、僕たちチームとも試合やトレーニングを多く行っていたし、スペイン語も流暢に話すからフランスに行った1年目からよくアドバイスを貰っていた。
今回も試合前にも関わらず、凄く長い時間しかも情熱的に話してくれた。
同じハンドボールファミリーとして日本に真剣にアドバイスしてくれた監督に心より感謝したい。




Posted by tabayuya at 17:57